七回忌
銀座界隈の並木道も少しずつその葉を落とし始め、すっかりと秋の装いに包み込まれた今日この頃。皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
私の方は先日、父の七回忌で久しぶりに大阪へ帰省しまして、あれからもう丸6年が経ったのかと、改めて歳月の流れ行く早さに驚いてしまいました。
枯葉が舞うこの季節、父はよく「秋は何となく寂しい感じがするなぁ」と漏らしていましたが、そんな晩年、何気なく父に質問したときのことをふと思い出しました。
自分の死について
なぜそんな質問をしたのか記憶にありませんが、父と二人で車に乗っているとき、私は父に、自分の死についてどう考えているか、ということを質問したことがあったのです。
「もうやりたいことは全部やったから、思い残すことは何もないな」
そんな答えが返ってきて、少しだけ意外にも感じましたが、何となくですが納得したのをよく覚えています。
限りなく潔く、そして人間的で、かつヨーガ的なひと言。
多くのヨーガの師は、エゴを捨てて無我になり、己の義務を果たせというような言い方をします。
その言わんとする意味はよく分かるのですが、とても誤解を招きやすい表現であるようにも思います。
やりたいことを捨てて、やるべきことを尽くす。
私はそうではなく、「やりたいこと」と「やるべきこと」とを一致させること、言い方を変えると、「我」と「分」を調和させることが大切なんじゃないかなと思っています。
月並みですが、心理学者のマズローが説いたように、私たちの欲求は「昇華」すると思うのです。
簡単に言いますと、私たち人間の欲求には段階があって、低い次元の欲求を満たすと、もう一段階高い次元の欲求を抱くようになるという考え方です。
例えば、食欲や睡眠欲など、生命活動に直結するような欲求が満たされると、今後もより安定してそれらが満たされ、そして安全が確保される生活をしたいという欲求が芽生える。
それが満たされると、今度は家族や会社、社会といったグループに属し、何かしらの役割を担うことで、さらなる安定感を得ようとする欲求が生まれる。
さらにそれが満たされると、そこで高い評価を得たいという気持ちを抱くようになる。
そのグループにおいて高い評価を得るということは、グループでのその人の貢献度が高いということ。言い換えれば、他人様のお役に立っているということ。
そしてそれも満たされたとき、私たちは最後の欲求として、評価や報酬などに対する執着を捨て、自分の個性を生かして創造や成長を続けたいという欲求が生まれるというのです。
評価や報酬を得るという欲求がすでに満たされているわけですから、またその人が行っていることは、多くの人に役立つことなわけですから、自分が行っている行為の結果には興味がなくなり、ひたすら何かを追求したり、創造したりし続けていくというわけです。
これが前々回のコラム「ドラッグな社会」でお話しした「本来的な欲求」ということなのです。
私たちの心は、腹ペコの時は何か食べたい、ご飯は大盛り、デザートも!なんてことを食べる前は考えているのに、食べ始めるとお腹が一杯になってきてデザートキャンセルなんてこともよくわる訳で。
(デザートなら食べれるという反論がありそうですが。。)
私たちの脳は、自分のものでありながら、実はプログラムされた通りに動いているだけという言い方もできるのです。そういった意味で、私はマズローが提唱したように、「やりたいこと」を追求し続けていくと、ヨーガが言うところのゴールに向かっていくように設計されていると思うわけなのです。
そして、その本来的な方向に向かって進むことができているとき、私たちの脳には気持ちよくなるような快感物質が分泌され、イルカがイワシを食べるように、もっともっとそっちへ向かって行きたいという思いが生まれ、突き進んでいけるようになっているわけです。
喩えは最悪ですが。。。
ところが、「ドラッグな社会」でも書いたように、私たちが生きるこの現代社会は、ただ単にこのシステムを利用して、その本来的な欲求から逸れ、心地よさだけが得られるような商品やサービスで溢れ返っています。
前々回と同じ結論なのですが、私はそんな社会そのものを否定するつもりはありません。
ただ、恐らく本来的な欲求の使い方をしていないとき、私たちは病気だの肥満だの、自分が願っていない方向へ向かっていくことになり、何かしらの不利益を被ることになるのです。
身体とか悩のシステムが「こら!そっちじゃないよ」って教えてくれているのです。
そんなサインの意味にさえ気づかない私たちは、そのサインが持つ意味や、それらを受け取る繊細さを取り戻すために、例えばヨーガなんかを行い、本来のルートに復帰することが必要とされているのではないでしょうか。
やりたいことは全部やった。
その言葉には、たくさんの意味が込められていると思いますが、私もこの世から卒業する前には、そんな言葉を言い残してみたいものだなあと思ったのでありました。
皆さんの「やりたいこと」と「やるべきこと」も、繋がっていきますように!
Om Shanti