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綿本ヨーガスタジオ提供 YOGA.jp - ヨガ・瞑想を知るホームページ

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スートラとタントラ

 

暮らしの中のヨガ哲学

一ヶ月ぶりでございます、綿本です。

皆様、いかがお過ごしでしょうか。

私の方は先日、沖縄リトリートに行って参りまして、本当に素敵な時間と空間を参加者の皆様と共有することができました。思ったよりも寒かったのですが、エメラルドグリーンの海を前にしてのYOGAはとても素敵でした。参加者の方をはじめ、企画運営にご協力いただいた方々、本当にありがとうございました!

と、そういう場ではなかったですね。コラムでした。すみません。


前回スートラについて簡単にご紹介しましたが、今回はその対極とも言える「タントラ」について見ていきたいと思います。

既にご紹介しましたように、スートラとは哲学を記した葉っぱに糸を通して冊子にするための”縦糸”のことでしたが、これに対してタントラとは一枚の布を織るために使う”横糸”のこと。縦糸だけでは完成しない布も、横糸を通すことで織り上げることができるという発想で、スートラを補う形でタントラが誕生したことを表しています。地球儀で言えば、縦の経線に対する、横の緯線がタントラということになります。では、実際に「タントラ」とは、どういうものなのでしょうか。


まずスートラについて言えば、それは哲学的な教えを主に”知識”として理解し、その知識をベースに”地道”に鍛錬を重ね、少しずつ実践を積み上げていくというアプローチでした。

これに対してタントラとは、事実や真実以上に、方便やテクニックなどを重視し、ある意味強引に意識の状態を変革させていこうとするアプローチのこと。言い換えると、スートラが理知的、理性的なのに対し、タントラは技法的、呪術的なアプローチだと言えます。

そもそもスートラは、正しいこと、真実を重んじ、真正面からそこ(YOGAが目指す境地)に近づいていこうとする考え方。例えば、ただ姿勢を正して瞑想を深め、心を空っぽにしていこうとするラージャヨーガは、とてもスートラ的なアプローチと言えます。

ただ、実際のところ、いかに正統派といえども、ただ坐るだけではその歩みは牛歩のように遅々たるもので、人が一生をかけても到達が難しいもの。そこで、強引な師匠の導きにより、技法を駆使しながら一足飛びに実践のレベルを深めようとするやり方であるタントラが登場したのです。このタントラでは、とても師弟関係を重んじ、弟子の状態や段階を的確に把握し、個別にその弟子が今何をすべきかを
「秘密の教え」として伝授し、それに特別な意味を与えます。弟子の方は、このような強烈な師弟関係から、実質的な効果以上のものを獲得することができ、スートラではたどり着けないような深い境地にまで、恐ろしいほどのスピードで到達することができるようになるのです。 このため、タントラは日本では「密教」と訳されています。
また、セックスに対して万物との調和(合一)という意味を与え、そういった行為を通して瞑想の実践レベルを一足飛びに深めようとする考え方も派生してきます。このように、タントラでは実際に行う行為や実践内容以上に、それに与えられた意味と、それによって生じる心理的な変化が重要になってくるわけです。

いずれにしても、真正面から馬鹿正直にアプローチしていくスートラとは比較にならないほど早く深く、タントラではYOGAの質を深めることができるというメリットの反面、導師(グル)と呼ばれる師匠の導き方、その方向性(舵取り)が間違えば、ただの都合のいい洗脳になってしまうという危険性を重ねて持ったアプローチだといえます。ヨーガの周辺で、こういった話が絶えないのは、この構造、枠組みのためなのです。

また、このタントリック(タントラ的)なアプローチでは、修行方法や教えは活字にされることなく、口伝で師匠から弟子へと伝えられるとされています。実際、タントラヨーガの代表格である「ハタヨーガ」のバイブル「ハタヨーガ・プラディーピカー」の第1章の11節では、次のようなことが記されています。


「ハタの道術は、秘密に護持する時にこそ力があり、公開すると無力なものになってしまう」(「ヨーガ根本教典」佐保田鶴治著 より引用)


活字でそう書かれているのはとても面白い事実ですね。つまりは「ハタヨーガ・プラディーピカー」というのは読む分には無力ですよ、ということを意味しているわけですが、いずれにしても師弟関係という狭い範囲で伝えられていくということを考えると、タントラが持つ危険性を考慮した上で、師匠を信頼することが必要になることを、繰り返し強調しておきたいと思います。


ただ、いまスタジオなどで行われているハタヨーガに関しては、その多くがこのタントラの枠組みを越え、師弟関係など関係なく技法として紹介されています。ですから、その危険性を危惧する必要もないとは思いますが、綿本ヨーガスタジオが、あくまでも自身のスタイルを「ハタヨーガのテクニックを使ったラージャヨーガ」と称しているのは、そういった意味があるわけです。ただ、そもそもヨーガというものそのものが、どれだけスートラ的であったとしても、本来タントラの要素を多く含んでいるというのも事実で、このあたりあまり厳密に分類する必要もなく、あくまでもスートラ、タントラとは何か、ということを知っておくだけでよいのかも知れません。


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